424条の3に通謀的害意があるのは何故?

数ヶ月ぶりの詐害行為取消権研究の記述となります。

日本加除出版という出版社があり、そこから、丸ごと一冊、詐害行為取消訴訟を扱う単行本を出す予定になっています。債権法改正後の新しい詐害行為取消訴訟の全てを解説するという意気込みで執筆したものであり、実務解説書として初めて責任説に基づく訴訟提起のあり方にも言及した内容となっています。責任説の足音が着実に響いてきている今、この本の先駆的意義は大きいと思っています。

そのため、この数ヶ月、そちらの原稿の執筆を優先させていました。ようやく組み版段階となり、私の手元を離れましたので、本日から再び、こちらの記述を再開したいと思います。

今回は、424条の3を取り上げます。「特定の債権者に対する担保の供与等の特則」と題する規定です。破産法162条や民事再生法127条の3の否認権と同様に、債務者の支払不能時以降になされた義務的行為について詐害行為取消しを認める規定ですね。そして、非義務的行為については支払不能になる前30日以内に行われた担保の供与等の行為も詐害行為となることも(424条の3第2項)、破産法や民事再生法上の否認権と同様です。

あれっ? 否認権の規定は支払不能概念を要件とするのみですが、詐害行為取消権に関する424条の3は、支払不能(あるいはその30日前以内)の要件に加えて、従来の判例法理(最判昭33・9・26民集12巻13号3022頁)である通謀的害意(債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図)の存在を要求しています。

424条の2ないし4の規定は倒産法上の否認権との平仄を意識し、同様の規定を設けたものと説明され、現に424条の2や同条の4の規定は否認権の規定と同様の規律になっています。何故、424条の3だけ通謀的害意の要件が追加されたのでしょうか?

一方には破産法との平仄と判例法理の明文化という2つの要請を考慮した妥協の産物の結果と理解する人がいます。通謀的害意には格別の意味を認めず、支払不能時の担保供与等の行為は通謀的害意が推定されるなどと説明します。通謀的害意の要件は基本的に無意味と考える立場です。

他方には改正法が通謀的害意の要件を追加したのは有害であるという理解があります。判例法理であった通謀的害意の要件は極めて厳格であり、実際にこの要件が認められることは通常、考えられないと説明されていた点に着目する立場です。

通謀的害意の要件は無意味であるか有害であるとしたら、寂しい話ですね。私は、どちらの立場にも与しません。改正法が支払不能基準に加えて通謀的害意の要件を定めたことには積極的な意義があると思っています。

詐害行為取消権は債務者の責任財産を回復するための制度と捉えるのが通説的な理解です。私もその点を否定するものではありません。ただ、私は詐害行為取消権の制度目的は債務者の責任財産の保全にとどまらず、ときと場合によっては、複数の債権者の存在を想定した集団的な債権関係の秩序を維持のためにも存在するし、事業を継続させるための有機的一体としての財産を保全することもまた詐害行為取消権の目的となることがあると理解しています。

私は前者の観点を、「集団性の議論」、後者の観点を、「事業継続性の議論」と呼んでいます。通常は債務者の責任財産を保全する必要がある典型的場面を想定して詐害行為取消権の議論をしていますが、実際の取引社会においては、それにとどまらない、より多元的な制度目的を詐害行為取消権は有していると考えるのです。集団性の議論は、以前にも、「続・詐害行為とは何か(私の理解)」に関連して述べました。今回は事業継続性の議論です。

この議論が求められるケースにおいては、①担保の供与等により他の債権の弁済を困難とする事実の認識を受益者と債務者が相互に共有するというだけで詐害行為取消権の行使を許容するのは適当ではなく、②逸出した財産が事業継続のために有機的一体としての財産を構成しており、その全ての返還が認められなければ債務者の事業継続を困難にするという認識までを受益者と債務者が相互に共有していることが必要というべきです。

支払不能時(あるいはその前30日以内)に行われた行為であるという事実があれば、原則的に①の認識を認めることは可能と思われます。②の認識を必要としないような場面(事業継続性の議論が不要な単一財産の逸失のケース)であれば、確かに支払不能時要件の他に通謀的害意要件を認める積極的な必要はないでしょう。

しかし、ときと場合によっては事業継続性の議論に基づく詐害行為取消権行使が求められるケースがあり、その場合には②の認識も必要となる、その場合、支払不能時要件のみをもってこれを認めることはできない、そこで、この②の認識が必要という点を詐害行為取消権の実務に反映させる工夫が必要となる、これがまさに424条の3において、「通謀的害意」の要件を規定した積極的な意味と、私は理解しているのです。

そして、このような場合として、ゴルフ場土地の詐害行為取消しの事案である國際友情倶樂部事件判決(最判平17・11・8日民集59巻9号2333頁)があると私は説明しています。