前回に引き続き、424条の2を取り上げます。この規定の意義、基本的な要件等は前回、触れましたので、具体的に問題となり得る点を検討します。
「倒産法上の否認権との平仄」のスローガンのもと、424条の2は破産法161条1項や民事再生法127条の2第1項と同様の規定内容となっています。
ところで、破産法161条には2項があります(民事再生法127条の2第2項も同様の規定です)。以下のような条文です。
〈破産法161条2項〉
前項の規定の適用については、当該行為の相手方が次に掲げる者のいずれかであるときは、その相手方は、当該行為の当時、破産者が同項第二号の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたものと推定する。
一 破産者が法人である場合のその理事、取締役、執行役、監事、監査役、清算人又はこれらに準ずる者
二 破産者が法人である場合にその破産者について次のイからハまでに掲げる者のいずれかに該当する者
イ 破産者である株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者
ロ 破産者である株式会社の総株主の議決権の過半数を子株式会社又は親法人及び子株式会社が有する場合における当該親法人
ハ 株式会社以外の法人が破産者である場合におけるイ又はロに掲げる者に準ずる者
三 破産者の親族又は同居者
なぜ、424条の2では、この2項が規定されなかったのでしょうか。法制審議会民法(債権関係)部会における部会資料には、以下のように説明されています。
〔部会資料73A・42頁〕
中間試案では、破産法161条第2項の推定規定と同様の規律をも民法に置くこととされていた(中間試案第15、2(2)参照)。もっとも、これについては、民法上の他の制度との関係における規律の密度や詳細さのバランス等を考慮し、明文の規定を設けることは見送ることとした。実務上は、同項の類推適用や事実上の推定等によって対応が図られることを想定している。
民法上の他の制度との関係における規律の密度や詳細さのバランス等が理由だったのですね。これは少し説明が必要です。今回の債権法改正では200以上の改正点がありますが、詐害行為取消権に関しては、大変、詳細で緻密な改正提案がなされていました。法制審議会の審議が進むにつれて、あまりにも緻密すぎて返って難解になるのではないか、他の規定との関係でも何故、詐害行為取消権だけがそこまで緻密なのか説明が付かないのではないか、その点が心配されるようになりました。
それでは、なぜ、詐害行為取消権だけがこのような難解な改正提案になったのでしょうか。それは、この権利の法的性質に関する議論と関係しています。私は、責任説という見解を支持しています。仮に責任説に基づく改正となれば、抜本的な改正となりますが、明文化される規律は比較的、シンプルなものとなります。
今回の改正では、当初、責任説に基づく改正も検討されました。しかし、多数意見とはならず、最終的には、大判明44・3・24民録17輯117頁という重要判例以来の折衷説を引き続き維持することとし、そのうえで、判例法理の問題点を個別的に修正するという方針になりました。私はこれを個別修正説による改正と呼称しています。
折衷説そのものが、その名称のとおり、異なる見解を折衷させたものであり、それ自体が複雑な性格を有しています。その複雑な折衷説が抱える問題点をさらに個別に解決する規定を設けようとしたのです。問題点ごとに個別の規定を設ければ、より複雑な規定になり、例外規定や、さらには例外の例外となる規定などを個別に設けるとなれば、規定はより難解になります。弥縫(びほう)的な改正の問題点のひとつと言うことができますね。
要するに、個別修正説に基づく改正から不可避的に生じる複雑化、難解化の問題に、一定の歯止めをかけようとした結果、424条の2には2項が規定されなかったという理解になります。
ただ、部会資料が自ら破産法161条2項を類推適用ないし事実上の推定の法理を用いる可能性を指摘しています。ですから、条文こそ設けられなかったものの、破産法161条2項に該当するケースについては、詐害行為取消権の適用においても同様の扱いがなされるべきだと思います。経過はともかく、債務者が一定の会社関係者や、個人の破産者であればその親族等に、不動産を譲渡した場合には、上記の2項のような扱いがなされることになる、そのように考える見解が有力となっています。