続・詐害行為とは何か(私の理解)

2017年改正法では、倒産法上の否認権との平仄を意識して、一般的な詐害行為類型に関する規定(424条)の他に、特殊な詐害行為類型の規定(424条の2ないし4)が明文化されました。その結果、一般的な類型としての詐害行為は、債務者の責任財産(強制執行の対象となる債務者の財産)を減少させるような行為だと整理することが可能となりました。この点は、既に前回、説明したところです。

しかし、424条の規定は、そのような、ある意味、当然のことを当然に規定しただけの規定なのでしょうか。それでは、せっかく詐害行為取消権制度を改正したことの意味が十分に全うされないのではないでしょうか。私はそのように思っています。詐害行為取消権は、債務者が債権者を害する行為をしたときに、その行為を無意味なものとし(この点が「取消し」という言葉に込められています)、債権者と債務者、さらには他の債権者なども含めて形成されている債権秩序(私はこれを集団的な債権関係秩序と名付けています)を回復させる制度です。その典型的な例が、債務者がその所有財産を第三者に譲渡するなどして、責任財産を逸出させた場合です。「詐害行為=債務者の責任財産減少行為」という構図は、その意味において正しいとは思います。しかし、集団的な債権関係秩序が侵害される場面は、債務者の責任財産の減少行為だけには留まらないと思います。

こう説明すると、次のような疑問をお持ちの人もいるかと思います。「そのために特殊な詐害行為類型の規定(424条の2ないし4)が設けられたのではないの。これらの規定を適用すればよいではないの。」という意見です。確かにそうですね。でも、これらの条文は、倒産法上の否認類型を見倣って明文化したものであり、この3か条で、債務者の責任財産の減少行為以外の行為類型で詐害行為となる場合の全てをカバーしているのかどうかは、疑問だと思っています。さらには、時代の変化に伴って、今後、全く新しい詐害行為形態が発生し、この3か条には該当しない場合もでてくるでしょう。現時点での具体例をあげるなら、濫用的会社分割に関する詐害行為取消権の行使のケースが考えられます。最高裁判所の判例(最判平24・10・12民集66巻10号3311頁)は結果的に詐害行為取消権の行使を許容しましたが、会社分割行為が会社の組織に関する行為である点を考慮した判決内容となっており、債務者の責任財産の減少とは別の観点からの判断がなされています。民法に先立って特殊な否認類型を明文化した破産法においても、濫用的な会社分割行為がいずれの否認類型に該当するかに関して議論が分かれてしまっています。2017年改正法で特殊な詐害行為類型に関する条文を明文化した民法においても同様の議論を生むことになると思います。改正法が用意する詐害行為類型に的確に該当しない行為が現実に存在していることを物語っています。

そこで、424条の一般的な詐害行為類型について、これを債務者の責任財産の減少行為であるという理解を原則としながらも、それに限ることなく、財産減少行為以外の行為で集団的な債権関係秩序が侵害される場合において、かつ、424条の2ないし4の特殊な詐害行為類型に該当すると考えることが困難なケースについては、424条が詐害行為取消権の総則的・一般的な規定であることに鑑み、この条文を根拠に取消しの対象とすることができるというのが私の理解です。改正民法のあり方を議論した法制審議会民法(債権関係)部会においても、私はそのような立場から発言しました。

なお、慶應義塾大学の片山直也教授も、この点については同様の見解を有しておられます。片山先生は、「濫用的会社分割・事業譲渡と詐害行為取消権」金融法務事情2071号(金融財政事情研究会、2017年)20頁において、改正法424条は、特則規定たる424条の2以下との関係で「一般規定」としての性質を有するとし、重層的規範構造を持つと指摘されています。片山先生とは、以前に、日本法律家協会主催の座談会でご一緒させていただきました。席上で直接にお話を伺う機会に恵まれ、私自身、この問題について、より強い思いを持つにいたりました。

片山先生の理解、そして、私の理解は、まだまだ一般的とはいえませんが、大切な視点を含むものと考えています。皆さんにも、考えてもらいたい問題です。