相当対価による財産処分行為の特則(424条の2)

2017年改正法では、424条の2ないし4の規定が新設されました。いわゆる特殊的詐害行為類型です。今回は、424条の2の規定(相当の対価を得てした財産の処分行為の特則)を取り上げます。
改正された詐害行為取消権を理解するうえで、重要なキーワードは、「倒産法上の否認権との平仄(ひょうそく)」です。倒産者が手続開始前に行った行為について一定の要件のもとにその効力を否認するという制度が否認権であり、民法に定める詐害行為取消権と類似する権利となります。そして、破産法、民事再生法などに規定される否認権は、民法に先立って2004年に抜本的な改正がなされました。
したがって、同じ事柄を扱う権利である否認権の内容が大きく変わったにもかかわらず、民法の詐害行為取消権が従来通りというのは、いかにもバランスが悪い、ここは平仄を合わせるべきであるとの意見が法制審議会における債権法改正の審議においても有力になったということです。
詐害行為取消権の実務において、重要な論点となっていたものに、債務者が経済的に困窮し、債務の支払いが困難になった状態下で、その所有する不動産を時価相当額で売却する行為が詐害行為となるかという問題がありました。時価相当額で売っている以上、形式的には債務者の財産は減少していないことになります。しかし、債権者からすれば、不動産として残っていれば将来的に強制執行をすることも容易ですが、金銭に変わってしまうと、隠匿されたり、消費されたりしてしまう危険があります。本来の財産減少行為ではないけれども、このような行為は詐害行為として取消しの対象にすべきではないか、このような問題意識があります。
一方で、経済的に困窮した債務者が不動産を売却して、資金を調達し再起を図るとか、どうしても必要な支出に充てるといったことは、認められるべきです。一律に不動産の売却行為を詐害行為とするのは妥当性を欠きます。そこで、どのような基準で詐害行為となる場合とならない場合を区分けするか、つまり、この場合に関する詐害行為判断の要件が問題となるのです。
判例(大判明44・10・3民録17輯538頁)は、不動産を隠匿、費消しやすい金銭に替えることは原則として詐害行為になるとしたうえで、例外的に、代金を他の債権者に対する弁済その他「有用の資」に充てるためなどの動機、目的を有し、その資に充てた場合には例外的に詐害行為性が否定されるとしていました。
ちなみにこの判例が生まれた明治44年という年は、詐害行為取消権制度を考えるうえでは、大変、重要な年となります。改めて触れることになる大判明44・3・24民録17輯117頁という重要判例(その重要さからモンスター判例など呼ばれることがあります。)も同じ年に言い渡されているからです。我が国において初めて民法が施行されたのは1898(明治31)年のことであり、施行後13年という段階で、このような重要な判例が生まれたことは明治期の法律家の意気込みのようなものを感じます。
「有用の資」で判断するという判例法理が約110年の間、存続していました。しかし、この「有用の資」というのは、資金の使途に関する債務者の意図、目的ということになりますから、不動産を購入する買主側からすれば、分かりにくく、無資力状態の債務者から不動産を購入する場合には、一定程度、詐害行為として取り消されることのリスクを負うという状況にありました。不動産取引の安全に対する支障となり、債務者の再起の可能性を奪うこととなると批判されてきたのです。
そこで、2017年改正法は、破産法161条1項、民事再生法127条の2第1項の規律と同様の規定を設け、この問題を解決しました。新設された424条の2は、以下の全ての要件を満たす場合に詐害行為として取消しが認められるとしています。
①隠匿等の処分のおそれの現実性
不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、債務者において隠匿、無償の供与その他の債権者を害する処分)をするおそれを現に生じさせるものであること。
②債務者の隠匿等の意思
債務者が行為当時、対価として取得した財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと。
③受益者の悪意
受益者が行為当時、上記②の債務者の意思を知っていたこと。

このような形で、否認権との平仄が図られたことになります。
それでは新設された424条の2の解釈、適用において注意すべき点はどこでしょうか。この点は次回に説明します。