注目の4大論点、注目されなかった2大論点

キャッチーなタイトルで恐縮です。今回の債権法改正によって改正された項目は、最終的に200以上となっていますが、その中でも特に重要な論点は何かという問題です。法制審議会民法(債権関係)部会での審議が終了し、改正法案が国会に提出される頃から、さかんに4つの論点が、新聞報道等で取り上げられるようになりました。

消滅時効、法定利率、保証法制、定型約款の4つです。4大論点などと呼ばれています。消滅時効の改正は、①主観的起算点を選択的に導入した上での時効期間の短期化、②批判の強かった民法上の短期消滅時効規定の削除、③時効障害事由の抜本的改正(中断、停止事由から、時効の完成猶予、更新事由へ)の3点がポイントなります。

法定利率は、2020年4月1日の改正法施行時に改正前の年利5%から3%に変更されました。そのうえで、市中金利の変化の状況を意識した緩やかな変動制を採用しています。

保証法制の改正は、個人保証人の保護という立法目的を達成するために、①これまで貸金等根保証についてだけ制度化されていた極度額を商取引に関する信用保証や賃貸借に関する賃借保証一般に拡張すること、②事業用貸金債務を主たる債務とする個人保証に関しては、保証契約の日前1か月以内に、保証人になろうとする者は公証役場に出頭して保証意思宣明公正証書を作成することが原則、義務化されたこと、③債権者あるいは主たる債務者の保証人に対する各種の情報提供義務が明文化されたことが、ポイントになります。

定型約款は、約款取引に関する規律をわが国の民法において初めて明文化するものであり、①定型約款の意義、②有効な合意とみなされるためのプロセス、③みなし合意から除外される不当、不意打ちとなる条項、④みなし合意内容を定型約款準備者が変更するための要件を新たに規定しました。「希薄な合意」が有効とされる約款取引に関する今回の改正は画期的なものとなっています。

以上が、4大論点です。いずれも重要でかつ、どのような改正がなされたか、比較的、説明のしやすい論点です。新聞等で取り上げることが多かった理由のひとつにこの分かりやすさという点があったと思います。今回の債権法改正においては、重要度という意味では、この4大論点に匹敵しながら、分かりやすさの面では劣った重要論点が2つあります。契約が守られなかった場合に適用されることとなる履行障害法に関する規定がそのひとつです。具体的には、①債務不履行による損害賠償責任、②契約解除、③危険負担、そして、④契約不適合責任と呼ばれる売買や請負における担保責任の規定などです。契約内容に従った履行がなされなかった場合に、債権者がどのような権利を行使することができるか。民法がどのような救済手段を債権者に与えているかという問題を扱う論点です。ここでは、「契約の拘束力」とか、「パクタ原則」などという現代的な契約観が深く関係する改正内容となっています。説明の難しい改正内容のため、あまり新聞報道等で指摘されることの少なった論点です。

そして、もうひとつが債権譲渡法制です。現代社会においては債権もまた取引の対象となっており、その重要性はますます高まっています。今回の改正では、①債権譲渡取引の障害となっていた譲渡禁止特約に関して、当事者間の特約で譲渡を制限しても、譲渡自体の効力は妨げられないこととし、取引の可能性を漸進させました。また、②将来債権譲渡に関する規律を民法に初めて規定しました。さらに、③債権譲渡の対抗要件について、異議なき承諾に与えられていた抗弁権の切断に関する効果を見直しました。これらの改正も、難解なところがあり、4大論点のような扱いは避けられましたが、重要な改正です。

私は、4大論点に、履行障害法と債権譲渡法制の2つの論点を加え、6大論点と名付けています。この6大論点を、これまでさまざまな研修会等で解説をしてきました。2017年改正法の主要な内容は、この6大論点の改正にあると理解しています。